【長野奇人伝19】西澤尚絋 〜オレの手でマヌケ宿泊所を守る!

長野にジローさんという謎の大御所がいる。以前リサイクルショップをやっており、同業のよしみで知り合って以来の付き合いだ。長野市のはずれの安茂里という一帯で好き放題に遊びながら仕事もしている人で、ま、言ってみれば地方豪族みたいな感じ。

長野山岳地帯に居を構える地方豪族のジロー氏

かつては、長野で行われた野外フェス「なんとかフェス(2009~2011)」にも力を貸してくれたり、近年のアジア圏との交流の際も台湾などまで足を運んだり、高円寺にもちょくちょく遊びに来たりと、何かと関わりも深い。

ジローさんの店にて。いぶし銀の貫禄

さて、今回はジローさんの話ではなく、もう一人の長野重要人物、西澤くんだ。豪族ジロー氏の配下、いや手下として活躍し頭角を表し、そのマヌケ感全開の雰囲気で存在感を出している西澤氏も、かつてのなんとかフェス時代以来の登場人物。好奇心旺盛な西澤くんは、長野市内のライブハウスや変わったスペース、イベントなどにも顔を出したりして、長野地下文化圏周辺もウロチョロしていて意外と顔が広い。そのため、安茂里の山中から長野市内に勢力拡大を虎視眈々と狙う豪族のジローさんからも一目置かれている。

近年も、長野に遊びに行ったり、西澤くんが東京に来たときはよく飲んだりもしていた。

西澤氏。ぱっと見の風貌は完全に農協青年部

で、この西澤くん、なにを隠そう高円寺マヌケ宿泊所の第一号のお客さん。2013年ごろ、まだ正式オープン前にいろいろ準備している頃、たまたま高円寺に来る用事があり、「ゲストハウス始めるって聞いたけど、もう泊まれますか?」というので「まだ準備が完全じゃないけど、知り合いだったらいいよ〜」となった。2021年1月の廃業までの間に5000人以上が宿泊した中の、記念すべき第1号。

そして、その西澤くん、マヌケ宿泊所が廃業したと聞いてとても残念がる。先日、長野に行った時もその話になり、「いや〜、海外の仲間たちがいつかまた来る時に備えて、なんらかの形で残しておきたいんだよね〜」と相談すると、「なんとかします」と、西澤氏。おお、これは心強い言葉!

そして数日後、東京に戻った後に西澤氏から送られてきたのがこの写真!

こ、これは! あのジローさんの領地内の山の中! 聞けば、解体現場でいらなくなった小屋をもらってきて、ここに移設したとのこと。完全に風雲たけし城の天守閣だ!!

おお、でかい!! まさに建設現場の仮設事務所! これは便利そうだ!

階段を登ると、なんと!!!

ギャー、マヌケ宿泊所!!!!

「いや〜、オレとジローさんでこの看板描いたんですよ」と西澤氏。まさかの長野移転! マヌケ宿泊所は死んでいなかった!

ギャー!! 畳!
これは、現場作業員たちが休憩の時に車座になってお茶を飲む、あの場所だ!! もしくは百姓一揆の密談の寄り合いに使われるお寺の離れと完全に同じだ!!!!(見たことないけど、たぶん同じ)

うわ〜、最高。これはこれで楽しそう〜!!

ということで、コロナ襲来によって敗退し、高円寺で滅亡したマヌケ宿泊所だが、長野の豪族ジローさんの庇護の下、西澤氏がマヌケ宿泊所の所長に就任し、長野の山中から再度東京進出を狙うということになった。

いや〜、楽しくなってきた。っていうか、そのうち遊びに行ってみよう! なんとかフェスもまた久々にやりたいしね〜

これは長野に目が離せなくなってきた!

高円寺奇人伝62 小泉兵義

高円寺。それは魑魅魍魎が蠢く四次元空間のような世界。世界的に街の開発が進み、各地が無機質な街並みに塗り替えられているにもかかわらず、頑固一徹・高円寺の街のみは、あいも変わらず完全に意味不明の世界。
昭和感満載のレトロな雑多感ある町などは、いろんなところにある。しかし、高円寺の恐ろしいところは、続々と謎の店やスペースが新たにでき続けているところだ。こんな街は日本でも稀有な存在だ。

そこへ、また一人の男が立ち上がった。小泉兵義氏である。
この人物が、この群雄割拠の高円寺の商店街の中で、満を持して新スペースを開くことを決断したのだ。

小泉兵義氏近影

社会の理不尽を許さない正義感の強い社会派の小泉氏は、常に巨悪に立ち向かい、己のポリシーを貫くハードボイルドな人物だ。多くの人が見て見ぬ振りをするような政治的な問題にも臆することなく声をあげ、しかも常に裏方に回りつつも、その崇高な理想を求める姿は誰にも止めることはできない。

そして一方、厨房に立つときは無駄口は一切聞かず、無口のままイタリアンからメキシカンまで各国料理を巧みに料理し、各種カクテルをも変幻自在に作る料理人の側面も持ち合わせている。
そんな小泉氏が、ついに自らの店舗を持つという決断をしたことに、高円寺の各界は戦々恐々と固唾をのんで注目した。今まで「高円寺はダメ人間の掃き溜め」などと好き放題言われていた高円寺の汚名をついに晴らす時が来たのではないか? バカにされながら高円寺で死んで行った死屍累々の無念に一矢報いることができるのではないか? 青山、六本木、銀座、赤坂などに出しても全く引けを取らないような名店が登場するのではないか、と、そんな期待を一手に集めた!

そして、10月5日。ついに、そんな明日の高円寺の流れを決めるようなグランドオープンの日を迎えた。

が、意外とショボい店だった!!!!!

なんだこりゃ〜。完全に下町の立ち飲み屋じゃねーか!
カウンターはその辺から拾ってきたようなベニヤ板がカラーボックスの上に乗ってるだけ。それが店主を囲むようにコの字型に並んでるという、吉野家と完全に同じレイアウト。店主小泉くんの座る椅子はもちろんビールケース。
古着屋時代の内装のままのため、壁から棚から真っ白。おまけに天井の照明も真っ白の蛍光灯なので、光の量はファミリーマートと同じぐらいで、万引きしたら3秒でバレる明るさ。

上の写真のように、ハードボイルド感0%で子供のようにご機嫌の小泉氏(左下)。

メニューはレモンサワー250円、ビール大瓶550円など。こりゃ、確かに銀座や赤坂のやつらが腰を抜かす価格帯。異常に明るい狭い店内で250円の酒を飲みまくるという、恐ろしい状態だ。でも、これどっかで体感したことあったな〜、と思ってたら、ふと思い出したのが山谷とか西成にある酒専門の自販機コーナー。明るいうちからニコニコしたおっちゃんたちが集ってきて、自販機のワンカップとか飲んで居酒屋化してる、あれだ!!!! この蛍光灯、白い壁、安酒の立ち飲みスタイル。同じ光景だ!!!!

そして、特に期待もせず、ふとフードメニュー、いや壁のお品書きの短冊を見ると、小さい読みにくい字で「キャビア」。なに!!?? そうか! やはり小泉氏、前面には立たず、陰でそっとキラリと光るものを出してくる、あの感じなのか!? さ、さすがだ!!!! そうきたか。
こっそりと小声で「あ、キャビア?」とつぶやいてみると、小泉氏もすかさず反応し「あ、それニセキャビアだから300円ね! キャビアもどき。味は似たようなもんだよ!」と、浅草の立ち飲み屋と全く同じ返答。しかもよくよく見たら、他のメニューも全部読みにくい字。チキショー、騙された!

でも、そうやっていながらも実は裏メニューがあったりするのが、この手の店の卑怯なやり口。そりゃそうだ、内装もメニューもこれだけだったら、本当に自販機コーナーと同じじゃねえか。なんかひと工夫考えてるんじゃないか? いや、そうに違いない。ずるいね、また。わざとこんな自販機コーナーみたいな内装にして、裏でこっそり隠しダネ出そうなんて。さてはそうやって人から尊敬されたりモテたりしようなんて目論んでるんじゃねーだろうな。そうはさせねーぞ、こんちくしょう。

「マスター、得意のパスタとかナチョスとかないの?」と、ちょっと聞いてみる。すると小泉氏「ないよ。めんどくさいじゃん。こんな厨房じゃできねーし」だって。ねーのかよ。 コノヤロー、また騙された!!

高円寺の商店街の路面店。しかもコンビニより明るい照明。目立ってしょうがないので、通りがかりの知り合いやら、飲む場所を探してウロついてる酔っ払い、ガールズバーの仕事帰りの女の子、近所で店やってる人、二十歳そこそこのヤンチャな奴ら、バンドマン…。完全にザ・高円寺な人々がどんどん立ち寄って飲んでいく。
みんなしみったれた飲み方は好きじゃないので、「マスターも一杯飲んで!」と、1000円札を出す。ところが、変なところで急にカッコつける悪いクセがある小泉氏は「僕は〇〇しか飲まないから、ちょっと高いよ。いいの?」と、急に訳のわからない酒の名前を出して勝ち誇ったようにクールに言い放つ。一瞬怯んだお客さんも「いいよいいよ、開店祝いだし、飲んじゃって!」と景気がいい。ま、高いって言っても聞いたら400円。確かにレモンサワー250円に比べれば確かに高い。
なんだか薬酒のような味のする謎の西洋の30度以上の強い酒。「これは薬だから、いくら飲んでも俺は大丈夫なんだよ」と、謎のハッタリをかまし始める。「じゃ、私も一杯おごります」「じゃあ、俺もおごっちゃおうかな」と、小泉氏の前に大量にグラスが並ぶ。冷静な人は「いや、やめたほうがいいよ。こんな飲んだらひっくり返るよ」と諭すが、「大丈夫大丈夫。これ薬だから。逆に目が覚めていいんだよ」と、やはり自販機コーナーな会話。

で、その怪酒を6〜7杯立て続けに飲んだ後の小泉氏。いきなり訳のわからない踊りを始め、完全にヘベレケに!!
周りからは「ほら〜、大丈夫?」「店閉められるの?」と心配されるが、「大丈夫、大丈夫。全然問題ない…」と、まな板を落としたりカウンターの板をひっくり返しそうになる小泉氏。もはや直立も怪しい状態に!!!
やばいやばい、このままぶっ倒れるという、まさに自販機コーナーの定番コースか!? 急にみんなが心配そうに声をかける。初日からノックダウンなのか!?

すると!!!!
突如、大爆笑し始め、饒舌にいろいろ話し始める! おお、不死鳥のように蘇った!!!! 恐るべし、小泉!!!! あの酒は本当に薬と同じなのか!?
みんなもほっと胸をなで下ろす。いや〜、よかったよかった。

いや、やっぱりダメだ!! 地面に座り込んだ!

そして、立ち上がるか寝るかの瀬戸際で自分との死闘を繰り広げる小泉兵義! 「全然余裕だよ。まだまだ行ける!」と、蚊の鳴くような声で、まだしぶとく大口を叩く。パンチドランカーならぬただのドランカー。立て! 立つんだ兵義!!

ダメだったか〜!
コテっと寝に入る小泉氏。
「あ〜あ、マスター寝ちゃったぞ」とみんなで店を片付け始めるお客さんたち。風邪ひかないように毛布と枕を持ってきて、店をあらかた片付けて、ひとり、またひとりと帰っていく。

そして、小泉氏ひとりを店に残し、静かにシャッターを閉めてお開き。小泉氏は、このまま朝まで深い眠りについたのだった。

そして翌日、「ここはどこだ!? 俺はなんでここで寝てるんだ!?」とものすごい驚いて飛び起きたとのこと。「昨日大丈夫だった? 今日は大丈夫なの?」と尋ねた人がいたが「今日? 開けられるわけねーだろ」と一言を残し、ボロ雑巾のような姿で帰宅の途についたという。

そして開店第2日目の10月6日。このシャッターが開くことはなかった。開店初日で飛ばしすぎて、1日のみで閉店。また高円寺に新たな伝説が刻まれた。果たして、この固く閉ざしたシャッターが再び開くときがくるのか?

「小泉自販機コーナー」。明日から毎日、生きてるかどうかをみんなで様子を見に行ってみよう!

小泉自販機コーナー
杉並区高円寺北3-4-12

北アジア奇人伝 No.8 アラスカの怪人 Seth

アラスカ怪人のSeth氏。神社の鈴紐みたいな髭が初詣みたいでむやみにめでたい

高円寺に謎のガイジン、Seth(セス)氏が現れるようになったのが、2018年の暮れ。なんとアラスカから来たという! おお、アラスカ! 現在はアメリカの一部分だけど飛地の上、実は昔はロシア領。しかも歴史的には、先史の時代にアジア北方民族がシベリアからアラスカに渡って定住し始め、アメリカ大陸の先住民のルーツになったということもある。アメリカだかユーラシアだかも曖昧だし、東洋か西洋かも曖昧。いいね〜、こういうところには面白いものがあるに違いない! それに地図上で考えても、北海道から北にサハリン(樺太)経由でシベリアを通って海峡を渡ればすぐアラスカだ。これはもう北アメリカであると同時に北アジアとも言えるポジション。近い近い! 近年爆発的に拡大しているアジア圏の大バカな奴らの交流圏に入ってきてもおかしくない! これは楽しくなってきた!!

余談だが、ロシアの東の最果てウラジオストクも同じ。現地では中央から僻地僻地とバカにされて心細い思いをしているが、よくよく考えるとモロに東アジア圏内で、実は地図を見たら日本海の新潟の対岸。このウラジオストク作戦、現在も進行中だが、アラスカも似たような感じかもしれない。

さて、このSeth氏。別にアラスカから来たから面白いというわけじゃない。こいつ自体がすでに相当やばい。まず中国語がペラペラ。おかげでアジア圏のいろんなところで容易に友達ができるので、ヒマを見てはアラスカから南下してアジア圏をウロチョロしまくっている。というか、翻訳などパソコンがあればできる仕事をしているので、永久に放浪してるんじゃないかってぐらいアラスカに帰ってない。本人も「アラスカなんもねーよ。寒いし冬暗いし」とのこと。うーん、イメージ通りだがちょっと行ってみたい。

しかも、別に観光で回ってるだけじゃなく、アジアのDIY文化圏、地下文化圏、マヌケ文化圏などをひたすら渡り歩いているので、やたら詳しい。そういえば、6月に香港のデモに参加しにいった時も、現地でSethから「おお、いま香港ウロウロしてたところ!」と連絡が来て、行動を共にした。うーん、手強い! さてはこいつどこにでもいるな!? 最近はしばらく高円寺に滞在してたんだけど、その時も中国のこの街にはこんな面白いスペースがある、とか、ミャンマーのどこどこの村にはこんなすごいグループがあってやばい、などの誰も知らない情報を異常に知ってる。そんな時、Sethが「場所どこだっけな〜。確かこの辺に…」と、おもむろに出した自分のスマホがやばい。「おいSeth、ちょっと待て! なんだその地図!!」と、すかさず見せてもらったのが、下の写真。

これはすごい。あまりにウロウロしすぎたため、アジア地下文化圏の情報量がすごい。もはや生き字引! これ全部遊びに行った面白い場所だとのこと。やはり、資料やネットで研究してたくさんのことを知ってる人の情報ってほとんど役に立たないんだけど、Sethの場合は実際にウロチョロして現地のやつらと遊んで知った情報だから、そこの雰囲気や人の感じなども含めて知ってるのがすごいし、情報としてもすごい有用だ! しかも、高円寺にいて毎日遊んでいる時も、アホなことばかり言ってたり、大バカなノリが最高なので、そのSethがオススメの場所なんだから、この信頼感はでかい!

マヌケゲストハウスのリビングにて

高円寺のマヌケゲストハウス滞在中も、中国人や台湾人、韓国人、高円寺人などが交流する中も、なんの違和感なく会話に入って遊んだり情報を交換しまくるSeth。さらに、当然英語も話すので、欧米から来てる英語しか話せない人ともうまくつなぐ橋渡し役になるので、Sethの存在感はでかい! う〜ん、無駄に未知のアジア地下文化圏を渡り歩いている貫禄か!

そんなSethも、年の瀬も押し迫ってくると「盆暮れ正月ぐらいは里帰りしないとまずい」と、中国語で話し、アラスカの里へ帰っていった。「近所(アジア全域のことだと思う)で何か面白いことがあったらいつでも行くから誘ってくれ」とのこと。いやー、アジアの北端からこれまたすごい奴が現れた!

中国奇人伝 No.85 芸術無法者、厲檳源

数日前、中国の芸術系の知り合いから「高円寺に遊びに行くよ〜」との連絡あり。芸術家やキュレーターの仲間と数人で来日中で、北京や成都から来ているという。新宿に宿をとっていると言うが、高円寺に来て一緒に飲んだりしてるうちに、そのうちの一人が「ここいいね。明日から高円寺に宿移すよ!」と、早速、翌日にも高円寺にまた舞い戻ってきた。やたら行動が早い! そう、その彼が厲檳源(リー・ビンユエン)氏だ。

2泊ほどの高円寺に滞在中、普通にアホな話をしながら飲んだりしていたんだけど、とあるタイミングで「そういえば、俺の作品見せてなかったね〜」と、スマホを取り出し作品を見せてくれた。自分としては本来そこまで芸術に興味がある方じゃないし、実は見てもチンプンカンプンだったりして、反応に困ることも多い。しかし、まあこのマヌケ感全開の厲(リー)さんだから何かしらふざけたものに違いないと、恐る恐るその映像を見てみると…

いきなりこんな感じ。なんだこりゃー!!!!! 花火大会級の超強力打ち上げ花火を水平にぶっ放しまくる映像!! やべー、超楽しそう!!! 景気良すぎる!!!!

どうやら「ドブ川の春」という名の人をおちょくった作品。花火が水面で炸裂しまくるから、四方八方に飛び散ってとんでもないことになってる! で、この作品、同じ日の夜中にも再度行われており、真っ暗な夜がまたすごいキレイ!!! そして深夜にもかかわらず爆音と火花が飛び散る!! すげー!

しかも無許可で勝手にやってるとのこと。聞いたら「申請? なんで?」みたいにケロッとしてる。別に通報も入らないし、警察も来てないって。すごい! あと、映像を見ればわかるけど、通行人が一切興味なさそうなのがいい。車とかもたくさん通りかかるんだけど、大量の火器を轟音と共に炸裂させまくってるのに、そのまま素通りしちゃう。

いや〜、わかる! この中国人の反応! 中国って人が多すぎるからか知らないけど、路上でとんでもないことが起こってもみんなチラッと見る程度で「なにやってんだ、こいつ」ぐらいの感じでそのままどっか行っちゃう。でも冷たいわけじゃなく、ちょっと話しかけるとみんなすごい優しい。逆に、中国の路上で、人に対して「さあ、みなさん、これから何かやりますよ〜!」みたいな感じでやるとみんな足を止めてすぐに人だかりになる。どっちの状況も日本とは全然違うな〜、この感じ。

ほかの作品も、とんでもないのが多く、北京の通勤ラッシュの時間に地下鉄内でサラリーマンの格好をして歯を磨いたり髭を剃ったりし始め、挙げ句の果てには大量の水を用意していてタライに水を張って顔を洗い始めたりっていう、これまたふざけた作品。ほかにも、北京市街地を裸で巨大な十字架を担いで走り回ったり、何本もの包丁を装着した原チャリでアスファルトに触れて火花を散らしながら北京市街を疾走したり。あるいは、道路の真ん中で爆竹を投げまくって車や自転車が通れなくなるというとんでもない作品も。これ面白いのが、車を止めてずっと終わるの待ってる人とか、うまいこと避けて行く人とか、全く気にせずに炸裂する爆竹の中を何事もないかのように直進していく人などの様子が超面白い。こんな周りの様子を撮れるのも中国の街の文化ならではの反応だ。最高、面白すぎる。

おそらく日本だったら、別になんの迷惑も被ってないのに通報する人とか、「迷惑だ」とか言ってなぜかネットで同意を求める謎の人とか、「通報入ったんでやめてもらえますか?」などと理由になってない理由で制止に入る謎の警官とかが続出する。ま、これじゃ路上では何も文化は育たないね。そういえば、日本も80年代90年代ごろまでは街頭で無茶苦茶やれたところもあるので、文化は育っていたが、それ以降政府が規制を強めた結果、路上文化は衰退の一途をたどる。惜しいな〜、行政にもうちょっと注意するところと目をつぶるところを区別できるセンスがあればね〜

中国は、政府は超厳しいし政治的自由はかなり厳格で政府の抑圧も半端じゃないけど、それさえ除けば街の様子に関しては中国は超自由な世界。最近、中国の芸術はすごい面白いのが続出してるのはこういう理由がある。いや〜、これはこれからも中国芸術界はとんでもないことになるに違いないから、今後も目が離せない!!

巨大な十字架を担ぎ、北京市内を疾走する厲さん

その後はバイクに乗り換えてさらに疾走

ということで、高円寺でも遊びまくって帰った厲檳源氏。いつか高円寺でも何かやろう〜、と約束し去っていった。いや〜、久々にこんな気持ちのいい大バカに会った! また帰ってきてね〜!!

上海奇人伝 その① 張小船

NO LIMIT JAKARTA が開催されている現在も各地からいろんなマヌケな人が登場している。今回はそんな中でアジア圏でもトップクラスにマヌケな人物を少し紹介してみよう。

数年前から高円寺にもよく遊びにきてる、中国上海から来ている小船。彼女は基本的にアーティストで意味のわからないことばかりやっており、少し前には中国人観光客が大量に訪れる真冬の北海道で爆買いの中国人に雪を売るというバカすぎる企画を決行し、高円寺にもそのバカの名を轟かせた。雪を見たことがない南方の中国人が、すぐに水になって空気になってしまうことにも気付かずに間違って買っていったという。北海道で中国人が中国人に雪を売るのはすごい!

雪を売る小船。完全にイカサマ師だ。

さて、まず余談だけど、自分ジャカルタでパスポートを紛失! パスポート入りのカバンを放ったらかしたまま飲み屋で酔いつぶれて寝ていただけでカバンが消えていた。う〜ん、まさかなくなるとは!

ということで、ジャカルタからバリに到着してすぐに、警察署に紛失届けを出しに行く。海外の警察署って怖いから嫌なんだよな〜

一番右の人なんて棍棒持ってそうな勢いだ

さて、そこで飛行機が同じだった例の小船もついて来てくれたんだけど、怖い顔をした警官たちもマヌケな顔をしてウロチョロしている小船をみて「なんかマヌケなやつがいるぞ」という感じに。すると、人を殴りそうな顔をしている警官たち、実は怖いのは顔だけで、実際は超マヌケなやつらだった。で、いきなり「ちょっとそこの彼女、ご飯でも食べなさい」と、なぜかご飯を勧めてくる。おお、なんだその悪運の強さは!

意外と優しいおまわりさんたち

自分も少しつまむ程度にもらったが、いろいろ書類を書かないといけないので、怖い顔のマヌケなオッサンと別の机で紛失届けの書類を作成。しかし小船は死ぬほど食べ始め、おまわりさんたちの晩ごはんが全部なくなるぐらいの勢いで食べまくっている! おまわりさんたち、ニコニコしながら「もっと食べなさい」といいつつ、心なしか顔がちょっと寂しそうに。自分のパスポートが日本のだった上に、小船もカタコトの日本語で対応していたので、おまわりさんたちも完全に日本人だと勘違いしている。

小船の食べっぷりに警官たちも大喜び!

おまわりさんたちの晩ごはんをあらかた食べ尽くした小船、「ありがとう、ありがとう。バリの警察は世界一だ」と、感謝しつつも適当なことを言いながら、カバンから食べかけの豆の袋をおもむろに出して、「お礼にこれをあげます」とか言いながら豆を振る舞う小船。晩ごはんがあらかたなくなったおまわりさんたちは、とりあえず豆に群がりみんなでムシャムシャ食べ始める。ヤバい! 浅草寺の鳩みたいだ!! 当然、日本の豆だと思っているおまわりさんたちも嬉しそうに「これはどこの豆なんだい?」と小船に尋ねると「中国の豆です」と答える。特別なもの以外は基本的に中国の食品をあげて喜ぶ人はあまりいないので、おまわりさんたちも「う〜ん、中国ね。いいね」などと、特に感想も言わずに食べるペースが若干落ちる。

日本で警察でご飯を食べるのは捕まった時だけだ

書類作成が超適当なのもいい。一番怖い顔のオッサンがカタコトの日本語で「ドコデ、ナクシマシタカ?」と聞くので、「ジャカルタです!」と、答えると、「う〜ん、ジャカルタねえ…」と、少し考える。おそらくジャカルタだとそっちに連絡したりと仕事が増えるから面倒っぽい。すると、突然「よし! バリにしよう! バリだよな!」と言い出した。いいねー、この仕事っぷり。日本の警官や公務員も見習ってほしい。あるいは、小船がものすごい勢いで自分のご飯を食べているので、早く書類を作成したい可能性もある。そして「時間はいつ?」というが、無くしたのは一昨日だけど、バリってことになるとつじつまが合わなくなる。…などと考えていると「よし、まあ1時間前だな。よし、そうしよう」などと自分でどんどん進め始める。中国の豆にすらありつけなくなったら一大事だ。

誕生日のおまわりさんと記念撮影。左は豆も食べ損ねた人

そして、聞けばその場にいたおまわりさんたちのうちの1人が誕生日。なるほど、そういうことか! それでみんなでご飯を食べるつもりだったようだ。ちなみに、食べ物は全部すごい美味しかった。バリの料理はおいしい! …と、小船氏。

この直後、小船の前に果物が直撃!

さて、バリの市内に向かい、みんなが泊まっている宿に到着すると、早くも大宴会に。バリ初日の上にジャカルタでは酒の入手が困難だったということもあり、やたら盛り上がる。すると、少しうるさかったようで、他の部屋のお客さんが突如謎の果物を二階から投げて来て、小船の前の机に落下! すると、さすが小船氏、怒っている人がいるとはったく気付かず「うわ〜、かわいい果物!」などと余計騒ぎ出した。ダメだこりゃ!