中国奇人伝 No.85 芸術無法者、厲檳源

数日前、中国の芸術系の知り合いから「高円寺に遊びに行くよ〜」との連絡あり。芸術家やキュレーターの仲間と数人で来日中で、北京や成都から来ているという。新宿に宿をとっていると言うが、高円寺に来て一緒に飲んだりしてるうちに、そのうちの一人が「ここいいね。明日から高円寺に宿移すよ!」と、早速、翌日にも高円寺にまた舞い戻ってきた。やたら行動が早い! そう、その彼が厲檳源(リー・ビンユエン)氏だ。

2泊ほどの高円寺に滞在中、普通にアホな話をしながら飲んだりしていたんだけど、とあるタイミングで「そういえば、俺の作品見せてなかったね〜」と、スマホを取り出し作品を見せてくれた。自分としては本来そこまで芸術に興味がある方じゃないし、実は見てもチンプンカンプンだったりして、反応に困ることも多い。しかし、まあこのマヌケ感全開の厲(リー)さんだから何かしらふざけたものに違いないと、恐る恐るその映像を見てみると…

いきなりこんな感じ。なんだこりゃー!!!!! 花火大会級の超強力打ち上げ花火を水平にぶっ放しまくる映像!! やべー、超楽しそう!!! 景気良すぎる!!!!

どうやら「ドブ川の春」という名の人をおちょくった作品。花火が水面で炸裂しまくるから、四方八方に飛び散ってとんでもないことになってる! で、この作品、同じ日の夜中にも再度行われており、真っ暗な夜がまたすごいキレイ!!! そして深夜にもかかわらず爆音と火花が飛び散る!! すげー!

しかも無許可で勝手にやってるとのこと。聞いたら「申請? なんで?」みたいにケロッとしてる。別に通報も入らないし、警察も来てないって。すごい! あと、映像を見ればわかるけど、通行人が一切興味なさそうなのがいい。車とかもたくさん通りかかるんだけど、大量の火器を轟音と共に炸裂させまくってるのに、そのまま素通りしちゃう。

いや〜、わかる! この中国人の反応! 中国って人が多すぎるからか知らないけど、路上でとんでもないことが起こってもみんなチラッと見る程度で「なにやってんだ、こいつ」ぐらいの感じでそのままどっか行っちゃう。でも冷たいわけじゃなく、ちょっと話しかけるとみんなすごい優しい。逆に、中国の路上で、人に対して「さあ、みなさん、これから何かやりますよ〜!」みたいな感じでやるとみんな足を止めてすぐに人だかりになる。どっちの状況も日本とは全然違うな〜、この感じ。

ほかの作品も、とんでもないのが多く、北京の通勤ラッシュの時間に地下鉄内でサラリーマンの格好をして歯を磨いたり髭を剃ったりし始め、挙げ句の果てには大量の水を用意していてタライに水を張って顔を洗い始めたりっていう、これまたふざけた作品。ほかにも、北京市街地を裸で巨大な十字架を担いで走り回ったり、何本もの包丁を装着した原チャリでアスファルトに触れて火花を散らしながら北京市街を疾走したり。あるいは、道路の真ん中で爆竹を投げまくって車や自転車が通れなくなるというとんでもない作品も。これ面白いのが、車を止めてずっと終わるの待ってる人とか、うまいこと避けて行く人とか、全く気にせずに炸裂する爆竹の中を何事もないかのように直進していく人などの様子が超面白い。こんな周りの様子を撮れるのも中国の街の文化ならではの反応だ。最高、面白すぎる。

おそらく日本だったら、別になんの迷惑も被ってないのに通報する人とか、「迷惑だ」とか言ってなぜかネットで同意を求める謎の人とか、「通報入ったんでやめてもらえますか?」などと理由になってない理由で制止に入る謎の警官とかが続出する。ま、これじゃ路上では何も文化は育たないね。そういえば、日本も80年代90年代ごろまでは街頭で無茶苦茶やれたところもあるので、文化は育っていたが、それ以降政府が規制を強めた結果、路上文化は衰退の一途をたどる。惜しいな〜、行政にもうちょっと注意するところと目をつぶるところを区別できるセンスがあればね〜

中国は、政府は超厳しいし政治的自由はかなり厳格で政府の抑圧も半端じゃないけど、それさえ除けば街の様子に関しては中国は超自由な世界。最近、中国の芸術はすごい面白いのが続出してるのはこういう理由がある。いや〜、これはこれからも中国芸術界はとんでもないことになるに違いないから、今後も目が離せない!!

巨大な十字架を担ぎ、北京市内を疾走する厲さん
その後はバイクに乗り換えてさらに疾走

ということで、高円寺でも遊びまくって帰った厲檳源氏。いつか高円寺でも何かやろう〜、と約束し去っていった。いや〜、久々にこんな気持ちのいい大バカに会った! また帰ってきてね〜!!