【高円寺奇人伝17】シム二等兵、ついに徴兵に取られる!

シムくんという高円寺をウロつく酔っ払い青年がいる。彼は謎の飲んだくれで、高円寺のいろんな店をウロチョロ飲み歩いており、気付いたらいつの間にかシムがいて驚いたり、で、話の流れで「そうだよなあシム」と振り向いたらすでにどっか別の店に飲みに行ってたりして、高円寺の座敷わらしと恐れられる人物。
そして、無駄に学があるので急に誰も興味のない難しい話をし始めるのが唯一、いや、数多ある欠点のひとつ。ふらっと飲みにきたトボけた顔したオッサンに突如難解な話をし始めて「何言ってるかわかんねえよ!」と怒られるシムの様子を何度見てきたことか!

さあ、そんなマヌケな飲んだくれのシムくんだが、なんとついに赤紙、つまり召集令状が来てしまい、なんと軍隊に取られることに。おーい、こんな飲んだくれ軍隊じゃ絶対に役に立たないぞー! しかもこのシムくん、かねてより「徴兵なんて意味ない」「戦争の練習なんてしたくねえ」と言っていたので、こりゃ気の毒だ〜

徴兵制なんてあったっけ、と思うかもしれないけど、このシムくん何を隠そう韓国から来ており、本国から赤紙が来たっていうことだ。韓国では約2年間の兵役義務があり、これを避けて通るのは至難の業。だいたい二十歳を超える頃になるとみんな続々と兵役に取られていくわけだが、シムくんは言わずと知れた、油断しまくりの天然の大バカ。兵役なんてバカバカしいことやってられないから国を出るよと、留学で日本に来る。「しばらく日本にいるうちに徴兵制なんていう時代遅れなものなくなるだろ」と、完全に油断して飲みまくって遊び歩き始める。ちなみに上の写真は高円寺初登場の19歳ごろの時。

無駄なインテリ気質は生まれつきで、日本に来るとまずは東京芸大で研究生になり、そのあとは東京外大に移籍し、万人には理解不能な難解で無駄な研究にいそしみ始めるシム。さらに地頭(じあたま)がいいのか日本語は来日直後に一瞬でマスターし、その辺の日本人の日本語力を超す勢い。明日は博士か大臣か!? どこまで成長するんだ、シム!!!

と、思ったのも束の間。そう、ここは東京の高円寺。無駄な知識ばかりがどんどん増えていくシム。飲み屋の会話でも突如、「いや〜、でも1987年の阪神タイガースのスタメン4番は⚪︎⚪︎だったからな〜」とか「バブルの頃のタクシー初乗りは⚪︎⚪︎円だったしね」とか言い出す始末。なんでそんなこと知ってるんだ〜!!!! さては、ロクに研究もせずに飲み歩いてるな〜! 予想通り、大学ではひたすら落第を繰り返す。

案の定飲みまくるシム。しかも貧乏すぎるので、どんな酒も平気で飲む。

ただ、よくわからない強い酒を飲んで酷い目にあうことも頻繁。

そして、酔っ払いすぎるとめんどくささが発揮されてきて、「また始まった!」と、周囲の人が距離を置き始め…

勝手に潰れて寝るのがいつのもパターン。ちなみに上の写真の左にいるのは台湾の料理人・トニー。彼も高円寺にはよく遊びに来るのだが、シムとはのんべえ子弟コンビのようになって、シムがだいたい潰れている。そして写真のテーブル上のメガネは、シムが酔っ払って「メガネがない!メガネがない!」と千鳥足で騒ぎ始めて最後に自分のメガネを踏み、黄色いガムテープで補修したもの。

さあ、そんなどうしようもない飲んだくれシムが7〜8年の高円寺生活を経て、軍隊からのお呼び出し。いや、それ無理でしょ。20歳当時ならまだしも、どっぷりと高円寺のんべえチームに入って各地を飲み歩いてるダメ人間が、人と争ったり武器や殺人の訓練なんてできるわけないじゃねーか〜!

さすがにこれは気の毒だってことで、なんとか兵役に行かなくて済む手はないものだろうかと、高円寺の酒飲みたちで頭を捻り「巨額の財を稼いで賄賂わたす」「偽装結婚しかない」「兵役検査前に醤油飲で失格する」など、徴兵回避の案を出すがなかなか名案が出ない。

で、最後に出た奇策がこちら!

秘策! “あ、すいません! 北と南間違えました”作戦!
かつての日本の徴兵の時みたいに、寄ってたかって日の丸の旗におせっかいにも寄せ書きして、軍隊に行かざるを得なくなるあれ。北朝鮮の国旗にみんなで寄せ書きして持たせ、意気揚々と徴兵検査に行って「あっ、南でしたか! 日本長かったんでついウッカリ…、こいつは申し訳ねえ」なんてことになれば、検査官から「おまえ、もう帰っていい」ってなるに違いない! これは完璧な作戦だ!
さっそく、Amazonで980円で旗を手にいれ、シムも毎日飲んだくれる高円寺「なんとかBAR」に寄せ書きブースを設置。貼ってみたら貼ってみたで、ものすごい威圧感。店長の小泉くんも「これは思ったよりでけえな〜」とビビる。
焦った小泉くん、一見さんが入ってきてギョッとするタイミングでいちいち「あ、いや、これは別に北朝鮮支持って意味合いじゃなくて、友達が韓国に軍隊行くから北と南間違えたってことで追い払われるんじゃないかってことで…」と、聞いたら余計わからなくなるような説明を毎回丁寧に早口で説明。

気づいたら寄せ書きの山。みんな「軍隊行かないで〜」「早く高円寺帰ってきて飲もう!」「戦争反対」「世界平和」など、およそ出征兵士に送る寄せ書きとは思えない落書きの山で、そもそも北朝鮮の旗。そして、気まずそうな顔で「こんなの見つかったら捕まっちゃうよ〜」「韓国持っていっても親にも見せられない!」などと気まずそうな顔で頭を抱えるシム。

聞けば、「国旗に字を書くって普通は不敬だから外国ではあまりやらないよ」との話も。なに〜、知らなかった。すでに死ぬほど書いてる! 北朝鮮悪かったよ〜、怒らないで〜。日本ではこれ普通なんだ〜〜〜
ま、そんなこともありつつも、寄せ書きは続く。

「なんとかBAR」はさすが高円寺。深夜0時を回る頃になると混み始める。深夜帯には立席の超満員に。っていうか、北朝鮮の国旗をメインに貼ってここまで盛り上がってる飲み屋なんて、一日だけとは言えここしかないだろ〜

徴兵制のある台湾や韓国に行くと、たまに友達の誰かが兵役に行くとか言って最後の飲み会なんかに出くわすことがよくある。が、日本で普段顔を合わせる奴が徴兵に行くっていうのはすごく新鮮。こんな感じなのか〜。高円寺の人たちからしたら、2年間遠くに行くと聞いたら懲役を思い出すのか、みんな口々に「何にも悪いことしてないのに2年なんてひどいよな〜」「早めに出て来れるように頑張れよ〜」「同じ房の人と仲良くやれよ」「面会行くよ」とか声かけてる。

これ持って帰ったら絶対逮捕だと怯えつつ、みんなからの大量の送別の寄せ書きに感動し、非常に複雑そうなシム。さあ、果たして“北と南間違えた”作戦は成功するのか!? 軍隊やら戦争なんて、所詮は金持ちや権力者同士の揉め事に過ぎない。こんなバカバカしいものに付き合わされるのはどこの国であってもまっぴら御免だ。ぜひうまく回避してもらいたい。本人も結果はどうあれ必ず高円寺に戻ってまた毎日飲みたいとのこと。果たして無事に高円寺に戻って来られるのか!?
シム、健闘を祈る!!

財産差し押さえられた!

Twitterって、全員が140文字でなんか言おうとしてるから、見たり書いたりしてるとどんどん頭が悪くなる感じがするんだよな〜 と、思ってる時に数日前久しぶりにブログ更新してみたらすごく自由な感じがした。いや〜、やっぱり自由に表現できる方が気分がいいね。
今日は天気もいいし珍しく気温も高い小春日和、いや〜、気分爽快。今日は外で家具の修理でもしようかな〜

なんて思ってたら、一枚の手紙が。

やられた〜! 財産差し押さえだ〜!!
政治ひどいくせに各種税金が高すぎてムカつくから払わなかったら、楽勝で差し押さえられた! うぬぬ〜、お主もなかなかやるな〜

【事件】波乱の奇書『だめ連の資本主義よりたのしく生きる』が出現!

 世界が混乱するとんでもない波乱のき奇書『だめ連の資本主義よりたのしく生きる』がついに登場! 大変だ〜!!!

ふざけた本

日本のプロテストシーンも様々で、権力者とガチンコバトル玉砕系、安全な場所からのインテリアタック系、選挙行けば世の中変わる系、はびこる悪は許さない系、自分はイケてる人間だからダサいデモとかは行かずアートで抽象的に表現系などなど、無数のスタイルがある。その中で重要な一角を占めているのが、“くだらない社会に対して、こっちはこっちで勝手な社会を作ってしまうことによって対抗してやれ”っていうスタイル。これは国内に限らず世界各国の悪い政府やロクでもない巨大企業によって戦争だの貧乏人からの搾取だのがまかり通ってる社会の中で、そんな連中による支配や経済圏から極力距離をとって勝手な社会(人間関係やらコミュニティ、遊び場やイベント、仕事、日常生活など含めて)を作って対抗しようという芸風。これ、高円寺でやっているいろんな店をバンバン作って、遊びも仕事も全部ひっくるめて作っていくという手法と共通してる。

社会運動がいよいよ下火になってくる90年代に生まれた“だめ連”は、そんな芸風の走りとも言える存在。ガチンコ玉砕系がいよいよ硫黄島の決戦のような状況に追い込まれてた当時の状況で、ケロッとマヌケな顔でひょっこり現れる。で、その数年ののちに自分が「法政の貧乏くささを守る会」を結成して騒ぎを起こし始めた頃、謎の集団「だめ連」の存在も知り、「なんだこいつらは〜!」とビビった覚えがある。当時の法政の貧乏くささを守る会は、ガチンコ突撃隊の別動隊みたいな感じで、奇策と奇襲専門の集団として完全にふざけたスタイルで敵のみぞおちに意表を突いたアタックをかけるような軍団だった。なので、基本的にだめ連とは毛色がだいぶ違ってはいたんだけど、いろんなところで遭遇するうちに、だめ連のむやみやたらと人のつながりを重視したり、気づいたら昼寝してるような手法から学ぶことは多かった。そう考えると、いま高円寺でいろんな店を作ってコミュニティを作ることや、アジア圏の大バカたちとの繋がりを重視して人をごちゃ混ぜにしていこうって作戦に勤しんでるのも、少なからずだめ連のインパクトはあったはず。

↑これ、ぺぺさんのセリフ。「ぺぺさんはなんでも受け入れすぎなんですよ」と文句を言って「松本くんは真面目に考えてないんだよ」と怒られるパターンは何度もあった。最後までソリが合わなかったな〜笑(仲悪かったわけではない)

と、そんなこんなで時代は流れ、資本主義の世の中もいよいよ限界がきて、そこに食らいついて生きてきた人々にどんどんしわ寄せが来まくって、ニッチもサッチも行かない人たちが急増してる現在。いま、資本主義的な価値観によって作り上げられてきた価値観に見切りをつけてローカルなところで勝手な社会を続々と作ることは超重要だし、今に至るまでだめ連が色々といい加減にのらりくらりと活動してきたことも超重要だったりもする。で、しかも、去年(2023年)惜しまれながら三途の川を渡って行ったペペ長谷川氏! そのペペ長谷川が残した完全にふざけた生き方をおさらいし、それを呑気に生き延びている神長恒一氏が最終的にまとめ上げたこの書は、相当ヤバい書!!
要するにこの書での重要なテーマは「資本主義がイケイケだった頃に作られたシステムの中に身を置いてたら、これからの時代は危なっかしくてしょうがないから、さっさとそこから離脱して別の秩序をこっちで作ってそこに身を寄せた方が安全だし先行き明るい!」ってこと。
いや〜、景気いいね。こうなったらさっさと勝手に生き始めて、巨大資本の権化みたいな人たちがテンヤワンヤになってるのをお茶でも飲みながら見物して、弱り果ててる元富豪たちに「ほら、言わんこっちゃねえ。金のことばかり考えてるからそんな目に遭うんだよ。わかったら心入れ替えてこっちへ来ねえ! これからは真面目に生きるんだぞ」と、説教の一つも垂れてマヌケな社会に招いてやるのもいい。

で、なんと! この本の巻末には、そんな話も含めて20数ページにわたる鼎談で参加してる。本の対談って、だいたいのおさらいみたいな話をふわっとやって終わるようなのもありがちだけど、神長さんと雨宮さんという面子もあって、この鼎談では結構深い重要な話まで触れてるので、これは必読!

と、この本の紹介しようかなと久々のブログ書いてたら、まんまと神長さんが例によってマヌケな顔をして「どうもどうも」と現れた! と言うわけで、うちの店(素人の乱5号店)でも販売する予定。

諸君! このふざけた本は読むしかない!!