東京都の新自粛要請の恐怖!
10分以内に1杯飲まないといけない可能性も!

さあ、皆さん。いよいよコロナ第二波を迎え、東京都でも再度自粛要請なるものが発表された。で、その飲食店に課せられた感染防止ガイドラインが、これまたヤバい。消毒や換気など、諸々のお達しがあるが、ソーシャルディスタンスを保つべしとのことがなかなかの強敵。お客さんの間にパーテーションを設置するという代替策もあるとのことだけど、食堂ならまだしも、お客さん同士が話をするのが重要な飲み屋で、お客さんにそんな窮屈な目に合わせるわけにはいかない。他者との交流を制限するんだったら、じゃあ家で飲めばいいじゃねーかってことになり、そもそも飲み屋の存在意義が問われてくる。…ということで、ソーシャルディスタンスを保ちつつ経営を成り立たせる事は果たして可能なのか!?
ちょうどうちも、高円寺で「なんとかBAR」というのをやってるので、そこを例にして、感染防止ガイドラインを厳守する試算をしてみよう〜

恐怖月45万円のデッドライン

「なんとかBAR」は基本的に日替わり店主で回す感じで運営しているんだけど、ここは試算ってことで、仮に自分一人で店を回し、その店の収入だけで生活すると仮定して話を進めよう。
さあ、ソーシャルディスタンスを守った「新しい生活様式」なるものは可能なのか!?

さあ、ではまずは月にいくら売上ないといけないのかというところから。
まずは店主の収入。最低賃金レベルで、アパートに一人暮らしでギリギリ暮らせる額として月収15万円程度は必要だ。まあ、生涯この月収というのは厳しいところもあるが、まあ試算ということで、最低レベルのところから始めよう。
そしてお次は店の経費。まず「なんとかBAR」の家賃は約76000円。それに加えて水道光熱費や店内のWi-Fi、商店会費などの固定出費が4万円強ぐらいかかる。そして、細かい消耗品などの費用を足して、月に13万円程度は最低でもかかってしまう。それと、いざ製氷機が壊れたの、ガス器具が故障しただのっていう臨時出費の積み立てもしないといけないので、まあ固定費としては15万円ぐらいにしておこう。これでもギリギリの額だ。
で、さっきの15万円を足して、計30万円。これはまず店を成り立たせるために月末に残ってないといけない必須の金額だ。

さらに! 飲食店の原価率ってのはだいたい3割程度は見ないといけないので、月末までに30万円を手元に残すためには、食材や仕入れ値の分も加味して、月に約45万円を売り上げないといけない。なるほど〜、そう来たか。45万円ね。

地獄の100時間

そして! お次は営業時間。
こちらも一人で切り盛りすると考えて、ひとまず労働基準法通りで行ってみよう。一日8時間で週5日働くとする。当然、自営業者がそんな短時間のわけはなく、一日10時間の週6日ぐらいは店で働いている人が多い(自分もそう)のだが、ま、ここはあえて恵まれた労働者の時間を目指してみよう。
1日8時間労働で、買い出しや仕込み、その他の雑務や後片付けなどの時間を差し引くと、まあ営業時間は5時間がせいぜい。平時であれば、高円寺タイム的には夜8時から深夜1時ぐらいまでの5時間を選択したいところだけど、都の今回の自粛要請では10時に閉店とのことなので、逆算すると開店は夕方5時。早い、早すぎる!
ともかく、週5日なので、月に約20日営業。時間にすると約100時間の営業時間。
さあ、この時間で45万円をどうゲットすればいいのか!?

4席の熾烈な戦い!!

さてさて、お次は客数の問題。まず「なんとかBAR」は8坪程度の物件で、カウンターとテーブル席を合わせて20席程度。混んでくると半分立ち飲み状態になるので、詰めれば30人程度はなんとか入るっていうサイズ感の店。そこへ最大の難関、ソーシャルディスタンスの登場! なんと2m推奨! これを店内で試算してみたところ、お客さんが2mの距離を維持して座る場合、定員はなんと4人!それしか入らない!
で、使えるのはこの4席のみ。4人が5時間飲んで行ってもいいし、各席1時間交代で延べ20人が飲んで行ってもいいけど、とにかく泣いても笑っても4席のみ。さあ、かかってきやがれ。

ちなみに、20日間の営業で45万円を売り上げるとなると、1日あたりの最低売上額は2万2500円。これを下回ると店が潰れるか店主が死ぬ。で、これを4席5時間で計算すると、席に座った人には1時間以内に1125円を消費してもらわないといけないことになる。「なんとかBAR」の平均的な価格帯は、サワーやチューハイ系が300円っていう激安価格帯の日が多い。ということは、4杯弱。ちなみにビールは400円だけど、原価率が高いので5杯は飲んでもらわないといけなくなる。
60分でこの酒の量はちょっとキツイので、まあ、300円程度の軽いおつまみを2皿ぐらいちょっと頼んでさらにビールとウーロンハイ、そんな感じで1125円はクリアできそう。ただ、それは60分以内の話。61分目からは次の1125円がやって来る。もうおつまみは食べきれない。じゃあさらに60分以内にさらに4杯のウーロンハイ。これは死ぬ。
ってことで、完全に入れ替え制でどんどん回して行くしかない。

ところが、そんな世の中甘くはない。政治家たちに自営業者の哀愁はわかりっこない。上の計算は完全に満席の場合。毎日開店から閉店まで満席の店なんてあるわけない。割とありがちなのは、開店から数時間は、お客さんが入らず、最後の2時間ぐらいでまとまったお客さんが入って辛うじて最低ライン行くか行かないかってのが個人の飲食店の常だ。ここで4席縛りが効いてくる。団体客で一気に稼ぐみたいなことができない。それに、夕方5時から開けるので、序盤は厳しい戦いなのは目に見えている。
ということで、死ぬほど宣伝したりいろいろ策を練ったとしても、客席の稼働率はどう頑張っても60%ぐらいか(これでもかなり大変なこと)。

すると、計算上4席のうち2.4席が稼働していることになる。こうなってくると、目標額達成には、1席60分あたり1800円を消費しないといけないことになる。レモンサワーでいえばなんと6杯。つまり10分に一杯!!! これはほとんど飲み比べ大会クラスのペース。あるいは、おつまみを入れたとしても、2皿+4杯(60分以内)。結構ハードコアなヤケ酒スタイルだ。
ちなみに、仮に見ず知らずのBARに入って、立て続けに6杯も飲み干したら、絶対バーテンに「お客さん、今日は何か辛いことでもあったんですか?」と、言われるお決まりのパターンだ。
おまけに、ソーシャルディスタンスなので、みんなで盛り上がった勢いで飲んじゃうなんてことはあり得ない。そう、隣のお客さんは2m先で一人寂しくチビリチビリと飲んでいるだけだ。
こうなったら最終手段と、食堂と割り切ってフードメインにしても、それはムダなあがき。カレーやパスタ、丼ものなどの食事系なんて食べようもんなら3人前は出てくる。枝豆や簡単な炒め物みたいな簡単なおつまみなら6皿も出てきてしまう。冷奴ぐらいなら6皿頑張っていけるかもしれないけど、冷奴6皿を大急ぎで平らげて1800円って、もうなんの店だかわからない。食堂作戦もダメだ!
2時間なんて居ようもんなら、定食三人前+酒6杯。これ、完全に頭がおかしい状態に!! あるいは開き直って5時間フルで居座ろうもんなら、ウーロンハイ30杯で、お会計は9000円。もう、安いんだか高いんだかもわからない。無理、無理、間違いなく死ぬ!!

こうなったらメニューを値上げして客単価上げるしかねえってのが、また素人の浅はかな考え。「なんとかBAR」で、1000円の料理と1000円の酒を出すとなったら、換気しない換気扇とか、たまに水が逆流するエアコン、欠けた皿などは許されない。引き戸なのに前に倒れて頭をぶつける入口の扉など、誰がどう責任を取るのか。安い酒には訳がある。高い酒にも訳がある。1000円のものを出すには、その辺をちゃんとしていかないといけないので、それなりの費用もかかれば家賃もかさみ、ノルマの客単価もさらに上がってしまう。
もちろん、それもできなくはない。ただ、世の中の飲食店が全て中級店以上になっていいのだろうか。いや、ダメだ。意味不明の貧乏な大バカたちが飲める場所はなきゃいけない。

結論

と、いうことで。感染防止ガイドラインを守りながらの営業なんて、やーめた。